北アルプスの登山道を次の世代へ~ 北アルプストレイルプログラム事業報告会&ワークショップレポート(前編)

令和8年2月23日、富山市にて「北アルプストレイルプログラム事業報告会&ワークショップ」が開催されました。本会では、令和7年度に協力金を活用し富山県側で実施された6つの団体の取り組みを共有するとともに、持続可能な登山道を次の世代へ引き継いでいくために私たちができること。について意見交換が行われました。
なぜ登山道に焦点を当てるのか。北アルプストレイルプログラムの制度紹介

当日は中部山岳国立公園立山管理官事務所の内野祐弥国立公園管理官より、北アルプストレイルプログラムの制度についての概要説明からはじまりました。
北アルプス富山県側には約300kmもの登山道があります。3,000m級の稜線、高層湿原、岩稜帯から樹林帯など多様な自然環境の中に登山道が続いています。しかし近年、豪雨や踏圧による侵食、担い手不足、財源不足など、さまざまな課題が顕在化しています。登山道は誰かが整備し、維持しているからこそ安全に歩くことができ自然環境の保全にもつながっていきます。利用者の方にも現状を知っていただき登山道の課題を一緒に解決するために立ちあがったのが北アルプストレイルプログラムになります。

北アルプストレイルプログラムを分かりやすく表現すると「利用者参加型制度」です。持続可能な登山道維持の実現を目指し、利用者にも登山道維持の取組に参加いただく制度となります。具体的な協力のあり方としては以下の7つがあげられます。
①現状を理解する。
②費用面で参加する。
③労働面で参加する。
④登山行動を見直す。
⑤登山道の状況を報告する。
⑥利用者として意見を届ける。
⑦取組を広める。

各団体の取組み
今回は北アルプストレイルプログラムの協力金を活用して実施した6つの事業について各団体から発表がありましたのでその一部についてご紹介します。
1.朝日岳山岳遭難対策協議会:上原祐一氏

今回の発表者は朝日岳山岳遭難対策協議会副隊長である上原祐一さんにお話しをいただきました。朝日岳エリアは北アルプスでも最北部に位置し重要な拠点場となるのが朝日小屋です。

<朝日岳方面遭難対策協議会発表資料より>
朝日小屋は、富山側、長野側からのどちらからも1日かかる場所にあります。朝日岳山岳遭難対策協議会はこの朝日岳周辺で活動する団体で、今回の事業は夏山事前パトロール(3泊4日)を行うための支援に活用されました。
パトロールの総延長は50キロ以上と非常に長いルートとなります。パトロールでは倒木や標高の高い場所では雪渓が残っており安全確保のためにも整備がかかせません。

<朝日岳方面遭難対策協議会発表資料より>

<朝日岳方面遭難対策協議会発表資料より>
この時期の雪渓は固く締まっており、雪渓を切るのにも重労働となります。

<朝日岳方面遭難対策協議会発表資料より>

またわかりにくい場所ではベンガラを使用したマーキングで誘導を促します。

<朝日岳方面遭難対策協議会発表資料より>

<朝日岳方面遭難対策協議会発表資料より>
隊員が協力しあい、3泊4日の行程を経て日本海の不親知まで進んでパトロールは終了です。
2.宇奈月方面山岳遭難対策協議会:佐々木泉氏

今回の発表者は阿曽原温泉小屋の主人でもある佐々木泉さんです。黒部峡谷周辺は黒部峡谷鉄道などの観光利用と登山利用が混在するエリアです。令和6年1月1日の能登半島地震による落石で鉄橋が損傷した影響でここ2年間一部区間(猫又~欅平)が不通となっています。

<宇奈月方面山岳遭難対策協議会発表資料より>
急峻な地形の中で鉄道や登山道の道があるだけですごいことですが、その背景に安全対策は重要となります。宇奈月方面山岳遭難対策協議会の隊員はロープで安全確保を必要とする危険な場所での整備も実施しています。

<宇奈月方面山岳遭難対策協議会発表資料より>
ここ2年は登山者も入れない状況でしたが、登山道は維持していかないといけません。登山道が延びる欅平から白馬岳、唐松岳へと向かう登山道は標高差が2000m以上あり、標高の低い場所では毎年草刈りがかかせません。また、大規模な土砂崩壊に伴う倒木などの処理にもあたり、その苦労話もお話いただきました。

<宇奈月方面山岳遭難対策協議会発表資料より>
約20年前に整備した木道についてもお話があり、(もちろんその場の環境条件にもよるが)しっかりと整備した場所は今も劣化が少なく現存しているという事例も紹介いただきました。

<宇奈月方面山岳遭難対策協議会発表資料より>
3.一般社団法人立山ガイド協会:佐伯高男氏

立山ガイド協会は、前身となる「立山案内人組合」が設立され100年を超える歴史を持つ山岳ガイド団体です。主な活動として、登山者の安全確保を目的としたガイド業務のほか、立山周辺の登山道整備・維持活動に携わっています。今回の事業の目的は山小屋の作業負担を軽減し、国立公園の利用施設である登山道を持続可能な維持体制とすることを目指し実施されました。今回はガイド協会の佐伯高男さんから、今年度実施した4つのエリアの整備について発表いただきました。
①大日岳縦走線歩道 (奥大日岳~雷鳥沢)

<立山ガイド協会発表資料より>
奥大日岳~雷鳥沢の区間の維持管理は大日小屋が担っており、雪渓が残るエリアは小屋から遠く離れた雷鳥沢方面にあります。現場へ出向くのにもかなりの重労働で、その支援としてガイド協会が雪渓切りの整備を行いました。整備にはスコップやチェンソーを使用してステップを切っていきました。

<立山ガイド協会発表資料より>
②立山槍ヶ岳縦走線歩道 (鬼岳周辺)

<立山ガイド協会発表資料より>
室堂から五色ヶ原へ向かう途中に鬼岳をトラバースする箇所があり、ここは毎年雪渓が遅くまで残る箇所になります。このエリアは五色ヶ原山荘が維持管理を担っておりますが、このエリアも小屋から離れており負担が大きい箇所になります。

<立山ガイド協会発表資料より>
また雪渓は徐々に溶けていくため、一度整備をしたからといってその後に整備をしなくても良いというわけではなく、定期的なメンテナンスが必要です。その点も負担になっています。
③内蔵助平線歩道~1 (内蔵助分岐~内蔵助山荘)

<立山ガイド協会発表資料より>
内蔵助平から内蔵助山荘の区間はとても山深く、限られた人が利用する道となっています。近年は維持管理が追い付かず、標高の低い箇所では登山道がわからなくなり藪状態となっている箇所もありました。今回の整備では藪となっている箇所において機械を使っての刈払いを行い、標高が高く岩場の急峻な場所では、ロープが設置されており、安全に使用できるかの点検補修が行われました。

<立山ガイド協会発表資料より>
④内蔵助平線歩道~2 (内蔵助平線分岐~ハシゴ谷乗越)

<立山ガイド協会発表資料より>
内蔵助平線分岐~ハシゴ谷乗越の区間は真砂沢ロッジが維持管理を担っていますが、その他にも担当エリアが広く、小屋からさける人工にも限りがあり大きな負担となっています。この区間での維持管理作業が実施されました。登山道マーキングの点検補修、転石の除去、刈払い等の整備を行いました。

<立山ガイド協会発表資料より>